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【声を聞くのは耳だけではない】キャリアチェンジサロン事務局通信vol.26

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こんにちは。

事務局の櫻井正則が担当します、第26回目の事務局通信。

最後までご一読頂ければ幸いです。

※事務局通信は、キャリアチェンジサロンのセミナーやメールプログラムにお申込みいただいた方にキャリア関連のことやキャリアチェンジサロンの様子についてお送りしております。

 

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「 声を聞くのは耳だけではない 」

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私事で恐縮ですが、30年間精神障がい者の方の社会復帰施設で働いておりました。

その間のエピソードは数限りませんが、これは忘れられないというエピソードを挙げてくださいと問われれば、Aさんの事を思い出さざるを得ません。

 

私が入職する前から通われていた方で、統合失調症の方でした。

精神病ってどういう病気であるかの説明的なことは置いておいて、その大半を占めているのが「統合失調症」と言う障がいで、100人に1人がなる可能性がある身近な病気ともいえます。

 

その特徴は幻覚や妄想を伴っているということです。

人間の脳の働きはネットワークで成り立っています。

その働きが様々な要因で上手くまとまらなくなってくることによって起こる病気です。

 

幻覚や妄想はその方にしか分からないわけですが、もう一つの特徴としてやる気が出なくなったり、感情の起伏が無くなっていったりします。

「陰性症状」というものですが、健康な方が日々感じる喜怒哀楽の感情が弱くなり、表情の変化も乏しくなっていきます。

 

Aさんは正にその顕著な症状の方で、職場で笑ったりしたところを見たことがありませんでした。

 

私はその部署で9人の統合失調症の方にパソコンで印刷物の編集作業を教える責任者でしたので、まずは挨拶からと、毎朝出勤すると皆さんに「おはようございます。」と笑顔で挨拶をしておりました。

 

8人からは大きい声小さい声の差はあるものの、必ず「おはようございます。」と返事が返ってきます。

が、Aさんからは一言も返事が返ることはなく、じっと表情を変えずにパソコンのディスプレイを見つめているのが日々の状況でした。

 

病気のこともあるのでそれは致し方ないことと思いながら、ただ私からの挨拶は必ずAさんにも笑顔で送っておりました。

 

朝のその様な風景が2年も続いた頃ご両親から施設に連絡があり、「残念ですが、娘はどうしてもパソコンの作業が分からない、慣れないということで、別の施設の軽作業の仕事につけさせたいと思いますので、退所をさせて頂きます。」とのこと。

 

私たち施設はあくまでご本人の希望を最優先しますので、折角2年も頑張ってきたのに残念だな~という思いはあったものの、私たちはその希望に従うしかありません。

 

私の中にもAさんに対して、それ程引き留めるような感情的なものがなかったのも事実かも知れません。

2年間、結局朝の挨拶も一度も返ってくることのなかった方でしたので、私の方にもそれ程の気持ちが湧き上がってくることもありませんでした。

 

退所の日、ご両親と挨拶に来られたAさんは、ご両親に促されるままに私の前に来て深々と頭を下げられました。

 

「次の所に行っても、健康で頑張ってくださいね。」

と、おざなりな挨拶をする私。

 

そしてAさんが顔を上げると、私は思わず言葉を失ってしまいました。

 

なんと表情のない彼女の瞳から、滂沱の涙が流れているではありませんか。

 

……Aさんからの言葉はありません。ただ、ただ、涙が溢れているのです。

……そして、じっと私を見つめているのです。

 

私はその時にやっと気づいたのです。

 

Aさんはずっと私の挨拶を心で聞いてくれていて、そして、ずっといつも返事を返してくれていた。

2年間も、ずっと…。

それを聞けていなかったのは、私の方だったのだということを…。

 

以来、私は人に言葉を掛けるということはどういうことだろうと、考えています。

人の言葉を聞くということはどういうことだろうと、考えています。

 

答えは見つかりませんし、未だに聞けていないと感じています。

 

でも一つ言えること、努力していることは、人の心に語り掛けるようにしようとすること。

言葉を人の心に届けるようにしようと努力する事。

 

出来ていなくても、努力に無駄はないと思っています。

 

それを私に教えてくれた、Aさんに感謝しながら……。

 

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キャリアチェンジサロン運営事務局

櫻井 正則(さくらい まさのり)

20代から演劇の作・演出家として何十本もの創作劇を上演。

30歳の時に、精神障がい者の社会復帰施設での彼らとの出会いから、こんな世界があるのかと目覚め、以後その道に進み、仕事の傍ら10年間東京都での「心の健康フェスティバル」総合演出を担当。

6年間地域のエッセンシャルワーカーの若手の繋がりを主催。

50歳で精神障がい者に特化のe-ラーニングを事業としたNPO法人「Leaves of Grass」を立ち上げる。

2020年12月に60歳で職場を定年退職。

2021年2月にITアプリを導入してメンタルヘルスケアを支援する一般社団法人「リプラボ」を立ち上げる。

その他に狛江市のNPO法人「狛江さつき会」の理事も兼務。

現在調布の自宅と埼玉県小川町の事務所を行ったり来たりの生活で、小川町では日本ミツバチのチーズケーキ販売の事業を展開すると同時に、障がい者の方に活版印刷を教えて、ユネスコ無形文化遺産の和紙で名刺づくりを始めている。

 

雇用環境整備士資格(Ⅱ種)取得

 

■NPO法人Leavess of Grass

法人URL:%url5%(http://lognet.jp/)

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